ここにひとつの国家都市がある。

　名は、『ウォーム・アイ（穏やかな瞳）』。
　名前の由来は、近くの小高い丘に登れば明らかだ。河の流れの真中に王城を瞳として人の目の様な街が作られている。主に川を交易の手段とし、街はそこそこ賑わい、領地も適当にあり、ほどほどに豊かな国である。その名の通り実に『穏やかな』国だ。……見た目は。
　ここまで小さくて豊かだと、近隣の大国が黙っている訳がない。属国とすべく圧力をかけてきてもおかしくはないのだが、この国はその例外に当たった。どの国も攻めてこないのである。
　理由は、この都市の地下とその成り立ちにあった。

　そう、この都市は地下に古代遺跡を持っているのだ。

　解っているだけで三層からなる地下遺跡。ここに冒険者が集まり、村ができた。住み着き、街ができた。年老いて自らの知識や能力を若い人間に伝えることを願い、学園が出来た。その学園に冒険者以外の人も集まり、ついに国となったわけである。

　下手に戦など起せば遺跡に眠るものや錬金術師達の実験道具などが、どんな被害を及ぼすか知れない。戦い熟れした冒険者などもいる。穏やかな表面に惑わされてはならない。
　ゆえに隣国の結論はこうだ。
「触らぬ神に崇りなし」

　小国なのに平和。学園都市。物語は、このファンタジーの型を外れた王都にある、これまた型を外れたアパートから始まるのである。